3COINSはなぜ「300円じゃない商品」を増やしたのか
生活雑貨を「手頃な価格とデザイン性」で量産・提供する小売企業『3COINS』。昨年30周年を迎えた同社は、長らく「300円ショップ」というブランドイメージを軸に展開してきたが、近年では300円を超える商品を増やし従来の「均一価格」の枠を超えた商品展開を進めている。
母体となるパルグループHDは「3COINS」が好調で、4期連続「最高売上・経常利益」を更新中だ。
『3COINS』はキッチン用品やインテリア雑貨に加え、小型家電や収納用品など、従来の均一価格では扱いづらい商品も増え、こうした品ぞろえの変化からブランド転換が見て取れる。この動きは単なる値上げではなく、戦略的な判断によるものだ。
従来、3COINSは「手軽に買える可愛い雑貨」を中心に300円という価格がブランド価値の一部だった。しかし、自社データを分析してみたところ、主要な購買層は30〜40代女性で、実用的で生活の質を上げるアイテムへの需要が高いことがわかった。均一価格にこだわると素材や機能、デザインに制約が生じ主要な顧客層の期待を満たせない。そこで同社は価格帯を広げ「価値で選ばれるブランド」へと方針を変えた。
本記事では、『3COINS』が単なる価格改定ではなく、どのようにブランド戦略を見直しさらなる事業成長につなげたのか注目してみたい。
安価な「均一価格」のショップが抱える限界
均一価格のショップは価格が明確で、消費者に「手軽さ」と「安心感」を提供できる強みがある。しかし、その反面、原材料費や物流コストの変動に弱く、価格を一定に保ち続けることが事業の制約になる。特に雑貨や生活用品の分野ではトレンドや機能性の多様化が急速に進んでおり、均一価格の枠内でこれらに対応することは困難になりつつある。
消費者行動の変化もブランド転換に大きな影響を与えている。消費者は単に安価であることよりも、「デザイン」「機能」「使い勝手」といった価値を重視する傾向が高まっており、均一価格に固執するだけでは顧客満足を獲得できなくなっている。
さらにEC市場の拡大により、消費者は価格だけでなく品揃えやブランド体験を比較しながら購入を判断するようになり、低価格商品の優位性は相対的に低下している。
このような市場環境下で、「均一価格」という制約は、企業成長やブランド価値の向上において足かせになってしまい、企業存続のリスクとなってしまった。
データが導いた「真の顧客像」
均一価格の限界が見えてきた中、『3COINS』は自社の顧客データに着目し戦略転換の方向性を見出した。同社が自社の顧客データを分析した結果、実際の購買の中心は20代ではなく、30〜40代の女性であることが判明。この層は単なる低価格よりも「生活の質を高める価値」を求める傾向が強く、デザイン性や実用性に優れた商品へのニーズが顕著であった。
従来の「300円中心・若年層向け」という前提に固執した場合、このコアな顧客たちの期待に応えることは困難であった。価格を均一に保ちながら高付加価値の商品を提供することは、素材・機能・デザインの制約から現実的に難しい。こうした分析結果を踏まえ、『3COINS』は「価格に縛られない商品構成」を採用し、300円を超える商品も戦略的に導入する方向に舵を切ったのである。
この転換は、単なる価格変更ではなく、データに基づく顧客理解によりブランド戦略を再設計した事例といえる。市場環境や顧客ニーズの変化を正確に把握し、従来の前提に縛られない柔軟な経営判断を行うことが、ブランドの持続的成長に直結するということを示している。
価格に縛られないブランド戦略がもたらした成果
『3COINS』は価格の枠を外すことで商品開発の自由度を大きく拡げた。300円では実現が難しかった素材や機能を取り入れ、高付加価値の商品を投入できるようになった。キッチン雑貨や収納用品、美容関連アイテムなどこれまで手を出しにくかったカテゴリーに進出することが可能となり、結果として店舗全体の単価と売上も押し上げられた。
2025年9月16日には公式通販サイト「PAL CLOSET」にてベビー服の販売を開始。「大人も子どもも心ときめくデザインにこだわった、おしゃれを楽しむ“3COINSのべビー服”」として新たな価値を市場へ提供し始めた。
『3COINS』の戦略は、価格を単なる数字としてではなくブランド価値を伝える手段として位置づけた判断である。均一価格に固執せず、顧客が納得できる価値を提供することで購入満足度も向上した。さらに価格帯の幅を持たせることで異なるニーズを持つ顧客層を同時に取り込むことも可能になる。
注目すべき点は、既存の価格に固執すると成長は限定されるが、顧客価値を中心に戦略を見直すことで価格の変更が売上拡大とブランド力の向上につながるという点だ。この考え方は様々な業界の企業においても参考になる実践的なアプローチだといえる。
3COINSが“300均一”を超えた戦略
『3COINS』は単なる価格変更にとどまらず、ブランド自体を再構築してきた。「300円均一=安くて可愛い雑貨」というイメージから脱し、価格帯を広げながら、デザインや機能性の高い商品を揃えることで、新しい価値を提供している。これにより、幅広い顧客層を取り込み、単価も引き上げることに成功した。
店内では商品と陳列の工夫も進められた。キッチン用品や収納用品、美容雑貨などは、用途が分かりやすく手に取りやすい配置になっており、顧客が直感的に商品の魅力を理解できる。この体験設計が、単なる安さではなく「価値」で選ばれるブランドとしての信頼を生んでいる。
価格が上がった商品でも、顧客は納得して購入する。デザインや使い勝手、素材の良さなど、価値に見合った価格を提示することで、ブランド全体の魅力を高めている。結果として、売上や収益構造の改善にもつながった。
『3COINS』の事例は、均一価格モデルに依存する事業でも、戦略次第でブランド価値と売上を同時に伸ばせることを示している。固定観念にとらわれず、顧客の目線で価値を再定義することが、成長の鍵となる。
3COINSの事例から読み解く戦略のヒント
『3COINS』の変化は、柔軟な戦略設計が成長につながることを示している。
ここでは、本事例から導き出せる具体的なポイントを整理してみる。
価格に縛られない商品設計の重要性
・300円に固執せず、価格帯を広げることで商品開発の自由度が向上
・高付加価値の商品を投入でき、単価・売上の向上につながる
顧客データに基づく戦略転換
・主要顧客層(30〜40代女性)のニーズを分析し、ターゲットに沿った商品ラインナップを整備
・単なる低価格ではなく、価値を感じてもらえる商品提供が可能になった
店頭体験とブランド価値の連動
・商品陳列や店舗デザインを改善し、直感的に商品の魅力を理解できる体験を提供
・見た目・機能・利便性を一体化させることで、価格が上がっても納得して購入される
戦略の柔軟性が成長を後押し
・既存の価格モデルに固執せず、顧客価値を中心に意思決定することで、ブランド力と売上を同時に伸ばせる
・市場の変化や消費者の多様なニーズに対応できる体制を整えることができる
このように『3COINS』の事例からは、価格に縛られない柔軟な戦略設計と、顧客価値の徹底的な理解が成長の鍵であることが見えてくる。
まとめ:3COINSが示す「価格の再定義」という成長戦略
『3COINS』の事例は、価格の縛りを外すことでブランド全体の価値を高め成長につなげることが可能であることを示している。単なる300円均一という固定概念にとらわれず価格帯の幅を持たせることで、商品開発の自由度を広げ、高付加価値の商品を提供できるようになった。
また、購買データの分析を通じて主要顧客層のニーズを正確に把握し、それに沿った商品構成と店舗体験を設計したことが戦略の精度を高めている。陳列や店舗デザインなど、顧客体験を総合的に整えることで、価格が上がった商品であっても納得して購入される環境を作り出した。
この取り組みから得られるヒントは以下の通りである。
・価格にとらわれず、価値を中心に戦略を設計すること
・データに基づき、顧客ニーズに沿った商品構成を行うこと
・商品と店舗体験を統合的に考え、購入満足度を高めること
・市場変化に対応できる柔軟性を持つこと
『3COINS』は、価格を単なる数字ではなくブランド価値を伝える手段として再定義することで成長と顧客満足を両立させた。均一価格に依存する事業でも戦略次第でブランド力と収益を同時に高められることを示す事例である。
価格競争に頭を悩ませている企業は、この事例を参考に、価格の再定義を通じて顧客に選ばれるブランドをつくるための第一歩を検討してみてはどうだろうか。
